大島渚「飼育」

大島渚
04 /19 2021
シネマヴェーラ渋谷で、大島渚「飼育」 原作は大江健三郎。 脚本は田村孟。

戦時中の村に落下傘で墜ちてきた黒人兵(ヒュー・ハード)。憲兵の命で彼を納屋で飼育し続ける村に、次々と災難が起き、本家の長(三国連太郎)は彼を惨殺するが、やがて終戦、徴兵逃れで村を出た若者に罪を着せ事件の揉み消しを図る。日本社会のムラ意識と人種差別の構造を暴き出す、今だからこそ観るべき傑作。

捕虜にした黒人兵を巡る、とことん閉鎖的なムラ社会の騒動と、その果てに待つ悲劇的な顛末から「戦争責任とは一体なんぞや?」「戦争責任を水に流す悪い奴は誰なのか?」執念で描いた、新東宝末期のおどろおどろしい画と、モノクロの暗い画像が不気味な印象を植え付ける、ダークカラー一色の社会派作品。

大江健三郎の原作においては、主人公は子供であり、映画の中にも子供たちは大勢登場する。原作では「僕」が黒人兵を世話するうちに仲良くなったと勘違いするが、黒人兵は「僕」を人質にして、「僕」の父親が黒人兵を「僕」ごと叩き斬る。大江が描いた世界は大島映画の世界と全く異なる。

本作は、1961年に新東宝が倒産した後、わずか4ヶ月の寿命で、わずか6本の作品しか配給できなかった、あの「大宝」配給の中の貴重な6本で、他にも山際永三「狂熱の果て」などあるが、本作が監督の知名度含め圧倒的に有名で、冒頭に登場する「大宝」オープニングロゴがはっきり確認できる。

大江健三郎の原作が、デリケートな少年による、戦争など無関係に黒人と仲良くする素晴らしさを描いたユートピア思想、初めて見た黒人やB29に対する異物に対する好奇の目。大江健三郎の小説で感じる寓話性を、大島渚は敢えて戦中の典型的な日本のムラに落とし込み、リアルに変換した。

映画化された「飼育」は、もはや少年の目線ではなく、少年たちを外から観察する視線に場所を移しており、それはヒリヒリするほど痛くて辛い、「ああ、日本人で、しかも田舎に生まれて育つってどんなにしんどいことなんだろう」という、戦争そのものより日本社会の持つ悪弊を暴き出す。

映画の中盤までに繰り広げられる、過疎の部落における人間喜劇は、本家の長である三国連太郎を中心に、どこかで必ず血が交わっているであろう村人たちとの「家父長制」をベースにした息苦しくも共存共栄しなければやっていけない、絶望的な出口のない日本の農村風景を描き続ける。

捕虜となった黒人兵は、村人たちの諍い事の中に置き忘れられ、それはあたかも、日本兵が東南アジアで、当時「土人」と呼ばれた現地人との間にあった奇妙な出来事、それが米国の黒人から見れば日本人だって土人に過ぎない。自分たちをあまり買いかぶらない方がいいよ、というメッセージ。

この作品は、戦争が最も激しい時期に捕虜になった黒人兵が、終戦の直前に本家の長である三国連太郎に殺される。その遺体をどうする?俺たちに戦争責任なんてそのものあるの?戦時中は敵兵はやっつけろって言ってたじゃない!なんだよ、この豹変ぶりは!という、大いなる疑念である。

この作品には天皇は登場しないが、天皇陛下、バンザーイはなんども登場する。決してスキャンダラスでなく、真摯に、戦中・戦後の国民が戦争責任をどう受け止めたか?水に流して全てしまいにすりゃいいんじゃないか、という村人たちの悪意を、冷徹にシニカルな視線で見つめ続ける作品だ。

登場人物は黒人兵を除けば、全員が不気味。本家の長という重鎮ポジションなのになぜかモヒカンカットの(笑)三国連太郎は、映画を通して特異な髪型のせいか際立って目立つ(笑)息子が戦死した瞬間、急に物語に飛び込んでくるモンペ姿の三原葉子は「( ゚Д゚)これまで出てたの!」と思う意外性w

中でも一番、不気味なのは足を引きずりながら歩き、村人に威張り散らす傷痍軍人の戸浦六宏。戦前の日本人の唾棄すべき典型的な男であり、彼は本家の長の三国の顔だけはいつも立て続ける。三国ばかりが責任を背負い込んで悩み、戸浦はフッと消えてしまう。戸浦とはそういう男だったのだ。

追い詰められた三国は、黒人兵を惨殺し、村人たちは証拠隠滅のため、総出で穴を掘り、土中に埋める。大島監督が本作で一番描きたかったと思われるシーン、それは黒人兵が殺害されたことは「無かったこと」にし、水に流そうとすること。ムラ社会では穴を掘り土に埋めている全員が共犯者なのだ。

ところが、玉音放送で「日本敗戦」の報を聞き、三国は愕然とする「ヤベえ!あの黒人兵を殺しちゃったよ」もし見つかったら自分だけでなく村人全員が処刑されるかもしれない。そこで三国が取った手段はただ一つ、村人たちを集めての大宴会。彼は赤紙で兵隊に召集されたがその日限りで失踪した若者に目を止めた。

「いざとなれば、お前が罪を全部、被ってくれや!そうすれば、村のもんは全員、救われるんじゃ!」日本は敗戦の後、朝鮮戦争特需に沸き、いつしかA級戦犯もB級戦犯もなく、戦後のどさくさに紛れて戦争責任を背負わぬ輩が多く現れた。なぜ地元民は彼らを許したのだろうか。私は戦争責任を水に流してしまった輩を、絶対に許せない。

飼育1

飼育2

飼育4

飼育3
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世の中に映画は二種類しかありません。成人映画か、それ以外か、です(笑)
ロマンポルノを追っかけるうちにピンク映画もいっぱい観るようになってしまいましたw