大島渚「愛の亡霊」

大島渚
04 /19 2021
シネマヴェーラ渋谷で、大島渚「愛の亡霊」 原作は中村糸子「車屋儀三郎事件」

貧しい人力車夫の儀三郎(田村高廣)の妻・せき(吉行和子)が、26歳も年下の兵隊帰りの色男・豊次(藤竜也)と情事に溺れ、夫の儀三郎を絞殺して古井戸に遺棄。幽霊になって化けて出てくる儀三郎と、情事を重ねる豊次との間で、せきはよろめきながら最高のセックスと幸せを追い求める。情念の女・せきを演じる吉行和子の狂気の熱演に、恐怖より感動を覚える、幽玄的な画も素晴らしく美しい傑作。

あの「愛のコリーダ」にも匹敵する、いや、むしろそれ以上に、男女の理屈を超えた極限のドロドロとした愛情を描き出す。武満徹の前衛的な劇伴、宮島義勇の田舎の日本の四季を強調した撮影も素晴らしく、物語に神話性を醸し出し、同時に怪談のような妖気もスクリーンに漂う。

ところで私は、体当たりでヒロインを演じた吉行和子さんに、子供の頃からテレビや映画を通じて、言いようのないエロチックなものを、ずっと感じ続けてきた。私の母親より4歳も年上なのに、母親のようで、恋人のようで、娼婦のようで、でも一番印象に残るのは少女のようにあどけない素顔、こんな人が傍にいたら堪んないw

この作品は、吉行和子42歳の時の主演作で、藤竜也との濃厚なFUCKシーンや「私を見て!」全裸など、眩暈がするほどのエロス。一昨年公開の浜野佐知「雪子さんの足音」は84歳で主演、当時とダブルスコアで脱いではいないが「私は生涯現役!」まだまだ女性フェロモンを出し続けている。

吉行和子さんを観ていると、歳を重ねるごとに美しくなるばかりでなく、どんどんフェロモンも濃厚になっていく、こんな魅力的な女性もいるのだなあ、と感嘆する。本作はフランスで配給され、エンドマークが「FIN」旦々舎作品の「女性が束縛から解放され自由になる」テーゼを思う。

藤竜也は「愛のコリーダ」では松田英子とホンバンしちまったがw本作では間違いなく、してないと思います!というか、エロを目当てで観る作品じゃありません(←お前はエロ目当てだったのかよw)でも、ちょっと待って下さい、エロとは何ですか?濡れ場があればエロじゃないんです。

吉行和子一人だけが、映画の最初から最後まで、慈悲深き男たちのマドンナとして描かれ続ける。彼女は夫との愛に恵まれていたが、言い寄って来る若者にも身体を開いてしまう。夫を裏切った苦しみと、若い肉体にもてあそばれる官能の狭間に苦しむ和子の痴態は、エロそのものである!

画面は終始薄暗く、でも農村風景や納屋の中の暗闇は、どこか温かみさえ感じる。まるでフランス絵画の印象派のように、風景の一つ一つが幽玄で、輪郭がくっきりとしない、この世のものではない幻、幽霊かもしれないし、夢想かも知れない、心象風景のような現実が積み重なっていく。

若松孝二が制作協力しているからかもしれないが、大島監督らしい観念的、論理的な視座はほとんどなく、男女のセックス、恋愛感情を超えた情念的なエロスを前面に出しており、これを最初から最後まで一貫して演じきった吉行和子は凄いと思う。完全に彼女一人による一世一代の物語。

吉行和子が演じるせきは、40歳オーバーで人力車を引く優しい夫の儀三郎と二人の子供を持つ、平凡な四人家族にいて、藤竜也演じる豊次がちょっかい出してこなければ、恐らく平板な人生を歩んで終わりだったであろう、そんな彼女がふとしたきっかけで、ホントのセックスの情念に目覚めハマりこんでいく、基本はホラー映画w

冒頭で、せきの家族生活を紹介し、そこから豊次と一緒に夫の儀三郎を殺害した後、儀三郎が化けて出る前半が私は大好きで、儀三郎が死んでもなお、せきを思う愛情に、せきがよろめいてしまう、彼女は幽霊によろめくんですよ、しかも愛人と一緒に殺害した夫が幽霊!そんな奇妙なプロットがイイ!

後半に入ると、一度は自死を決意したせきが、家に火を放つが、豊次が助け出し「俺が一人で殺した」「いえ、私が一人で殺した」互いに自首を申し出ながら全裸になって抱き合う、ここが「愛のコリーダ」に重なる、男女の愛情がセックスで透明なものに昇華していく、最も官能的なパート。

せきと豊次と儀三郎(←ただし幽霊)の三角関係でずっと進む話の中に、神出鬼没で登場し続ける川谷拓三。エロスとは程遠い、イケてない巡査の彼は、儀三郎殺害事件の真犯人を追い、まるで江戸川乱歩の探偵ものの主人公のように、息を潜めてせきの家で豊次との情事を覗き続ける、影の主役。

ラストパートは、せきと豊次が古井戸に潜り込み、儀三郎の遺体を処分しようとしたところで、結局は川谷巡査に逮捕され、大きな樫の木に吊るされ、全裸で拷問に遭う、ここは若松孝二っぽい演出で、互いに「私一人でやった!」と叫びながら死刑になる、それが村の寓話として後に残る。

この作品のハイライトは二つある。前半部で、殺したはずの儀三郎の幽霊に、どんどん追い詰められていくせき。儀三郎の幽霊は、せきの前にしか登場しない。それは儀三郎が殺されてもなお、せきに愛情を持ち続け、せきもこれによろめき、これに豊次が激しく嫉妬する、この流れが私は大好きなのである。

でも、幽霊として登場する儀三郎に懺悔の念を持つせきは、自ら家に火を放ち、幼い息子ごと無理心中しようとする。子守奉公に出ていた上の娘も、自分が働く店の女将も、和子の悪事を知っていて、自分の元を去って行った。業火に包まれるせきは、過ちごと、全て燃やし尽くそうと考えた。

ゴーゴーと火が炎上するあばら家に、一人佇む吉行和子がハッとするほど美しい。彼女は夫を裏切ったことも、若い男と過ちを犯したことも、それが全員で娘に縁を切られたことも、全て自分の責任。火だるまになって死のうと思う。覚悟を決めた瞬間の表情や仕草はこの世のものではない。

私は火だるまで自死するしかない、そう覚悟したせきが藤豊次に助けられてからのストーリーは若干、平板になってしまう。ここからはせきと豊次の愛欲の日々がメインになるから、エロスとしては最高潮を迎えても、精神的な高揚感は、いささか欠ける嫌いがある。でも、二人が古井戸に向かい、事態は急転する。

古井戸の底には、豊次が投げ込み続けた落ち葉が堆積し、沼のようになっている。豊次とせきは、儀三郎の遺体を探すうちに底なし沼にハマり込み、ドロドロと引きずり込まれる。それはまるで、二人が歳の差不倫関係の泥沼にハマり込んだ愛欲の日々を身をもって体験し、堕ちていった地獄絵図そのものを描いている。

せきは、古井戸の底なし沼に沈んでいく途中で、両目を儀三郎にグサッと刺される。底なし沼に沈んでいくはずだったせきの身体は古井戸から自宅にワープし、目が見えないままに全裸になって豊次と抱き合うせき。亡き夫の愛情は、せきに底なし沼に沈むことすら許さなかったのであろう。

自首を覚悟したせきと豊次。川谷による宙づり拷問の恐怖に怯えながらも、せきは着物を全て脱ぎ捨て「こんな歳だから、もうきれいかどうかなんて、分からない。でも私のことを見て!」一糸まとわぬ姿で股間をおっぱいを、愛する豊次に見せる。私は吉行和子のおっぱいだけしか見ることができず、残念(^^;

せきは、両眼を亡き儀三郎に串刺しされ、これで罪の意識が瓦解したことで、初めて豊次と熱く愛し合った。そして逮捕、宙づり拷問される二人は叫ぶ「私が殺したの!」「俺が殺したんだ!」全裸で竹刀で叩かれ失神するせきと豊次は、不義密通を懺悔することにより、輪廻転生を遂げた。

愛の亡霊2

愛の亡霊1
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世の中に映画は二種類しかありません。成人映画か、それ以外か、です(笑)
ロマンポルノを追っかけるうちにピンク映画もいっぱい観るようになってしまいましたw